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【活動報告】「さんぽ大学」本年度のプログラムを終了しました

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2025.12.17

【活動報告】「さんぽ大学」本年度のプログラムを終了しました

「さんぽ大学」特別課外講義(上野〜本郷〜茗荷谷編)、2025年11月28日
案内人(写真中央):吉見俊哉(さんぽ大学学長、國學院大学観光まちづくり学部教授)
撮影:杉山亜希子

東京ビエンナーレ2025でのプロジェクト「さんぽ大学」は、連続講義とフィールドワークを通して「散歩とはなにか?」を多角的に探究してきました。

このプロジェクトでは、東京という土地を歩き、街や路地、地形、建物、水辺などを訪れ、過去から現在に至るまで重なり合う時間や記憶の層を辿りながら「散歩」という日常的な行為をアカデミックに読み解いていくことを目指しました。「学長」は社会学者の吉見俊哉、「副学長」は建築史家の陣内秀信の両氏が務め、まち歩きツアーや、ゲストを迎えての連続講義を開催しました。

 

その始まりは、芸術祭の開幕に先行して2024年秋に開催された「東京ビエンナーレ2025プレアクション」でのフィールドワーク型ツアーでした。吉見学長が上野・谷中エリアで、陣内副学長が日本橋エリアで、参加者とともに特別フィールドワークとしての散歩を実施しました。

2025年初頭には、これらの成果もふまえて「さんぽ大学」第1回特別講義が開かれました。吉見・陣内両氏に加え、同じく「東京ビエンナーレ2025プレアクション」で上野御徒町エリアの散歩ツアーを行ったクリエイティブ・ディレクターの小池一子(東京ビエンナーレ市民委員会共同代表)も登壇。進行は東京ビエンナーレ2025キュレトリアルメンバーの並河進と西原珉が行い、散歩の魅力や、この行為をどのようなテーマやジャンル、学問領域へと接続できるかを探ることからスタートしました。

 

陣内秀信(さんぽ大学副学長、法政大学名誉教授/中央区立郷土資料館館長) 撮影:ただ(ゆかい)

 

続く第2回特別講義「さんぽの刻(とき)」は、文学をご専門とする細馬宏通氏をゲストに迎えて開催。さらに第3回「さんぽの杜(もり)」では都内の凹凸地形に着目したフィールドワークで知られる皆川典久氏を、第4回「さんぽの街」では文化地理学者の大城直樹氏(および前述皆川氏)をゲストに迎えて講義が行われ、「東京という都市をいかに見て、いかに歩くか」を深く学ぶ時間となりました。

 

左から:大城直樹(文化地理学者,明治大学文学部教授)、皆川典久(東京スリバチ学会 会長)、細馬宏通(行動学者、早稲田大学文学学術院教授、滋賀県立大学名誉教授) 撮影:池ノ谷侑花(ゆかい)

 

また、芸術祭会期中には、実際に東京を歩いてその歴史や地形を辿るフィールドワーク型ツアー「さんぽ大学特別課外講義」も実施しました。陣内副学長のツアーでは日本橋から八丁堀~明石~佃島へと歩き、江戸の基層文化と、近代から現代に続く水辺の文化の変容と豊穣さを体感しました。吉見学長のツアーは、上野を起点に東大、春日~小石川~小日向~関口と、尾根道や谷道をいくつも越え、東京の歴史を辿りながら、都市の起伏のダイナミズムを実感する経験でした。

 

本年度の全プログラムは無事終了いたしました。

一年を通して楽しく、刺激的で、そして東京という都市そのものが持つ魅力と、未来へのポジティブなビジョンを力強く提示してくださった学長の吉見俊哉先生、副学長の陣内秀信先生に、心より御礼申し上げます。

また、特別講義ゲストの皆様それぞれの身体を伴う「街歩き」の方法論は、本芸術祭における「散歩」の表現にも大きな示唆を与えてくださいました。この場を借りて、改めて感謝申し上げます。そして、各回にご参加・ご協力くださった皆さまにおいては、このプロジェクトを共有してくださり、質疑応答などを通じてより活発で充実したひとときを共に作り上げていただいたことに心より御礼申し上げます。皆さまお一人おひとりの経験が、「さんぽ大学」という場を豊かなものへと育ててくれました。

 

散歩は、近代以降の資本主義がもたらしたリニアで直線的な時間=合目的性──「強く/早く/高く」への欲望にささやかに抗う行為ともいえます。

細い横道に入り、まがり、くねり、立ち止まり、観察し、のぼり、くだり、時につまずき、そして発見すること。

堆積した歴史の痕跡から都市を読みかえ、未来へとつながる兆しを見いだしながら、歩くというプロセスそのものから創造を立ち上げていくことでもあります。

 

だからこそ、アートは“散歩”そのもの。

答えへ最短距離を取らず、あえて横道にそれる歩みからこそ、未来へとひらかれた発見と創造が生まれる――その営みこそが、アートであり、散歩なのです。

 

ご参加くださったみなさま、ご協力いただいた各先生方、そして本企画を支えてくださったすべてのみなさまに、あらためて御礼申し上げます。

それぞれの歩みと視点が重なり合い、「さんぽ大学」という豊かな学びの場が実現いたしました。

またどこかのさんぽで、みなさまにお会いできることを楽しみにしています。

 

東京ビエンナーレ事務局「さんぽ大学」担当